翻訳の質

昨日、無事Amazon MarketplaceにPODを載せることができました。関係者の皆さま、どうもありがとうございました。さて、

『削ぎ落とすこと. 倫理. 教育.』を購入された方方へ:
本書が扱っている厳選された図版で、1968年発行『グラフィック デザイン マニュアル – 理論と演習』(以下略号=グ.デ.マ.)と重複するものは少ないのだが、まず以下の翻訳を熟読し、本書と比較していただきたい。

グ.デ.マ.:[上左は]垂直線の間隔が次第に狭くなっても白い背景はグラデーションの効果を生じない。[上右は]様々なグラデーションをつけられた細い線の帯。[下左は]黒い背景上に、一定の巾をもつ白い垂直線が次第に間隔を拡げている。この白い線は、黒の空間を生き生きとさせる。[下右]と比べて、黒い背景はリズムを感じさせる。[下右は]背景の⅓のところから グラデーションが始まっているので、この分離した⅓の黒い部分は独自の特質を帯びてくる。
本書:p.74

グ.デ.マ.:黒い等間隔の縞から、1部分が削除されると、黒と白の同質の形が生じる。テーマ:中央部に安定感を示している。顕著な対比。様々なグループ。上下運動。
本書:p.75

グ.デ.マ.:線の巾とその間隔のグラデーションによって作り出される運動感の錯視は色の明度を用いても創ることが出来る。
本書:p.129

グ.デ.マ.:所定の正方形(フォーマット)の中心で点が点としての視覚効果を示すために必要な大きさについて考慮する[上左]。正方形(フォーマット)の中で、点が完全に点としての視覚効果を与えることのできる適性な大きさ[上右]。グリッド(縦横の格子)上に秩序正しく配置された点[下左]。面積としてまとまりをもっている点のグループと独立した1コの点と、線としてのまとまりをもつ点のグループ[下右]。
本書:p.137

グ.デ.マ.:正方形の点、一定の太さの縦方向と横方向の線でグリッドの上に格子模様をつくると、自動的に白い正方形の空間が点として規則正しく残される。中央の4つの白い小さい正方形を塗りつぶして1つのドットにまとめると、にわかに点としての印象が強調され、他の規則的に配置されている小さい正方形のドットは、地のようにしかみえなくなる。
本書:p.138

グ.デ.マ.:基本的なグリッドを構成している黒い線を中断すると、中断された黒い線が、白い正方形のドットと結合してシンボルとしての視覚効果や形をつくりだす。グリッドの縦軸とおとし方や横軸のおとしかたの結合を工夫すると、全くちがった性質の図形がつくられる。
本書:p.139

グ.デ.マ.:プレイング カード。この練習の主な特徴は、黒線を主とした場合の黒線間の間隙との相互作用、又は白線を主とした場合の白線間の黒の間隙との相互作用にある。黒線と白線が生き生きとした運動感を与えるにもかかわらず、その相互作用は、主として明度の変化を感じさせる。
本書:p.140

グ.デ.マ.:鉛筆製造会社のポスター。
本書:p.141

グ.デ.マ.:水平線分を用いての構成練習。テーマ:加速度。
本書:p.142

グ.デ.マ.:水平線分を用いての構成練習。線分のオーバーラップとこれによってできたグレイの階調は、加速度の感じを強くさせ、同時に奥行きの錯覚も生じる。
本書:p.143

上の各キャプションは十分にホフマンの意図と授業内容を理解して、翻訳したのであろうか、甚だ疑問を感じる。出版時の反響はどのようだったのか。個人的に知りたいところである。当時のデザイナーや教師は果たして理解できたのであろうか。ただ図版を眺めていただけなのではないだろうか。また、現在に至っても、古本で手に入れられた方や図書館でご覧になった方の中にこの難解な日本語で理解できる方がいらっしゃるのだろうか、おそらくこの文章では誰も図版の真意を知ることができない(よっぽどオリジナルの英文の方が理解できるのではないか)。事実として、ここに挙げた一部の作品の説明でなく、丸々一冊このように発表されたのである。
誤解しないでいただきたい。ここでは過去の翻訳者個人を批判したいのではなく、正確に内容を伝えることはとても重要である。それを誤り、広く伝わってしまうことを危惧する。そのことを言いたい。

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