炭道具・灰道具の記号

兜巾頭の火箸
鳥頭、菊頭、桐実頭、渦頭、丁呂木頭、椎実頭、宝珠頭、瓢頭、大角豆頭から選んで火筋として使うのだが、どれも好みではない。ぼくのは烏天狗には付き物、頭襟(ときん)、山伏がかぶる小さな六角帽子の形。十二因縁(鳩摩羅什訳)、十二縁起・十二有支(玄奘訳)にちなんでおり、「支分は、無明、行、識、名色、六処、触、受、愛、取、有、生、老死、これら無明暗黒の煩悩だが、悟りに達すれば空(emptiness)になり、不動明王の頭頂にある蓮華のように清浄である」という意味。現実の苦悩の根源を断つという仏教の基本的な考えのひとつ。

蓮の灰匙
利休型なのだが、匙部に蓮華文が板金の打ち出し仕上げになっている珍しいもの。古い仏具のよう。意味的には日常で用いられる陶製匙の散蓮華(ちりれんげ)と同じく、自然で本当に美しい蓮の花から散った花弁に見立てている。仏教で重要とされているのが、煩悩に穢されることのない清浄な仏の心をあらわす「白蓮華」と、仏の大悲(だいひ)から生じる救済の働きを意味する「紅蓮華」。泥に染まらず清らかで美しい蓮華は、仏典では清浄な姿を仏にも例える。また漢訳三本の妙法蓮華経は「白蓮華のように正しい教えを説く経」という意で経題に用いられている。蓮は7月中旬から8月中旬位にかけて開花し、近所の上野不忍池が名所というのも何かの縁である。

うちはこの二つの火道具によって、より一層清められる。

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