わし棗

利休の秘蔵といわれる黒の鷲棗(わしなつめ)は、取り置きするときに握りこむように鷲掴みにする習いから呼ばれている小振りの尻張棗とされている。盛阿弥作の本歌は現存していない。利休が使用した記録もない(切腹に向かう際に懐に忍ばせたという説も)。したがって想像のかたち。仕覆は蜀江錦で、宗旦が有楽斎を招き盆点をされた記録があるため、型破りな棗とされる。おそらく、上から手の甲を水平にして五本の指で鷲掴みに取り置きする扱いで、この点前は、稽古ではほとんど習わない。
うちのは了々斎在判箱書きで、このようではなく利休形の黒小棗の写しに近い。いわゆる尻張形ではなく、蓋が丸く尖っていないため茶杓がうまくのらないこともない。謂れからすると、「この上なし」の意をもって、鷲掴みをしてから、蓋を開けるためには普段の平棗のように自然に持ち変える手が加わると、男点前の流れが似つかわしいのかもしれない。

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